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La Bitta(ラ・ビッタ)
私日本語話せます
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夜は高潮の心配がないとホテルのお姉さんがいうので、安心して出かける。目指すはアッカデミア近辺、ドルソドゥーロ地区のオステリアAi Quattro Feri。19時半過ぎに行ったのに、もうすでに予約で一杯と言う。この店はスローフードのオステリア・ガイドブックosterie d'Italiaにも出ている。残念、またね、というわけで、さて、どこに行こう。例の某女性誌にはすぐそばに“リストテケ”と称したリストランテ+エノテカを標榜する店があるというけど、今日はたまたま休みのようだし。なんとなく、Ai Quattro Feriの隣を覗いたらそこもどうやらバーカロ・オステリアのようだ。持って来たヴェネツィア・オステリエ&ディントルニを見ると、名前はLa Bittaという店らしい。メニューは少ないけど少数厳選という話のようで。とりあえず探すのも疲れたし、入ろうということに。
手前はたむろして立ち飲みするおやじ連、ところどころ、独りで飲む女性、という不思議な店で、入っていくとなんとなく視線が集まってくるのを感じる。飲みか食事かと聞かれ、食事だというと奥のテーブル席に通された。好奇の目を逃れ、メニューを見ると、前菜、プリモ、セコンド、それぞれ、2〜3種類しかない。ちなみに前菜はカボチャとラディッキオ・トレヴィーゾのイン・サオール、粗塩とローズマリーのトレヴィーソ風ポルケッタ、薫製牛肉のカルパッチョ。どれも8ユーロ。パスタは二種類でどちらも肉系、パッパルデッレのラグーとか。これも8ユーロ。セコンドは三種類、惹かれたのは豚頬肉のカベルネ・ブラサート、鴨のペヴェラーダソース(レバーのソース)。13〜18ユーロ。ともかく肉しかない。魚の文字はどこにも見当たらない。昼の余韻が残っている身体としては、かるーくチケッティ、それと野菜、という気分だったけれど、このメニューだと逃げ場がない。入る前に店先に貼ってあるメニューを見るべきだったと後悔したけど、果たして貼ってあったかどうか記憶が定かでない。注意力散漫。こんな状態でご飯食べても美味しいわけがない。
例によって、注文を聞きに来たお姉さんに、取材したい旨を言う。そして注文する。前菜にポルケッタと野菜のイン・サオール、セコンドの豚頬肉、そして私はセコンドの代わりにインサラータを頼む。情けないことに。ともかく、前菜がやってきたのでとりあえず撮る。ポルケッタは薄切りにしたそれがさっくりと山盛り。カボチャとラディッキオは玉ねぎの甘酢漬けになっていて、それがまた実に美味しい。酸っぱすぎず甘過ぎず、ラディッキオ本来の水分の多さがまた胃袋に心地よく、するすると入ってしまう。つけ合わせのポレンタもほかほかの煮上げたてでぱくぱく食べてしまう。全体に優しい味。バランスのいい味だ。ポルケッタも塩のバランスがよく、トスカーナで食べる“しょっぱい”ポルケッタ・イメージは覆される。
私達の担当のお姉さんが、あんたたち、それを本に載せないなら言いたいことがあるけど、実は私は日本語が話せます、という。きたきた、予想していたけど、ヴェネツィアには日本語を話す人が意外と多いのだ。ヴェネツィア大学には東洋文学科がある。フィレンツェでは日本語でバカ言っててもほとんど問題はないけれど、ヴェネツィアでは危ない。「私、日本語わかります」という人が結構いて、冷や汗かくような場面もないわけじゃない。よかった、まだここでは醜態を見せてなかったなとほっとしながら話を続ける。彼女の名はデボラ。日本文学は合計で8年学び、専攻は谷崎。はずかしながら、まともに読んだものがない。細雪と痴人の愛を半分くらい。ラッキーなことに、そういう方面の話にはいかず、もっぱら食べ物の話になる。あんたたちが撮りたいなら、他にも料理を持ってくるわよ、もちろん、食べなくてもいいわよ、という。食べたいのはやまやまだけど、ここで食べたら死んでしまうかもしれない、初日なのに、ということでブレーキをかけまくり、持って来てくれたら撮るということにする。そこで、鴨のペヴェラーダ・ソースを、誰か他の人のオーダーを利用して撮らせてもらう。冷めちゃうから早く早く、あ、ごめん、冷めちゃったかも、と言いながらデボラに返すと、大丈夫、イタリア人だから、と言いながら本来の依頼主のところに持っていった。
カベルネ・ソーヴィニヨンの豚頬肉ブラサートを食べる。これは今までにこんなに柔らかくて優しい味の頬肉を食べただろうかというくらい美味しい。頬肉というのは柔らかくて美味しいものだけど、フィレンツェでこんな頬肉を食べようと思ってもそうそう食べられるものではない。お肉料理のポイントをがっちり押さえた調理、という感じがする。ここはヴェネツィアなのに? 店のカードにはonly meatと書いてある。どうして肉なのかは、やっぱり他の店と違いを出したいがため、という。やるからにはきっちりと、中途半端な肉料理ならそのへんのリストランテにもある。そうではない、その日その日に入ってくる状態のいい肉の良さを引き出した料理を出す、というのがこの店のモットーである。冷凍ものを使いたくないがため、冷凍庫はない。豚頬肉に感動した相方は、その後に“撮影用”に持って来た薫製牛肉のカルパッチョを、食べてもいいなら食べる、とデボラに言う。果たして、さっぱりとした薫製と柔らかい塩味で、これも文句はなかった。
メニューはワインリストも含めて手書きである。料理は素材次第で変わるからそれもありだけど、ワインリストも変わるのか?ともかく、手書きでヴェネトやフリウリのワインばかりが並ぶ。聞いたことがないような銘柄。12ユーロから、安いものが揃う。グラッパやアックアヴィーテも種類が多い。デボラが用意してくれたドルチェ盛り合わせを食べる。チーズケーキ、ブルーベリーのケーキ、レモンと松の実のケーキ、チョコレートケーキの4種類が、オレンジ、キウイ、パイナップル、ぶどうと一緒にフォトジェニックに盛られている。ケーキはみな自家製だが、なかでも、チョコレートケーキはちょっと他では食べたことがない味。ねっとりとさっくりの中間のようなチョコの中にざらりとした砂糖の粒が微かに残る、甘いけれど甘過ぎないぎりぎりの味。美味しーいと言ったら、もう一切れ持ってきてくれた。あれほど昼間の満腹で、最初はもう晩ご飯も義務的だったのに、今や別人の腹。デザートワインも飲みきってしまう。こうなれば蒸留酒まで行かないと。何を飲んだのかはっきり記憶がないけれど、ヴェネトのグラッパを飲む。辛い。これは寒いときにきゅっと飲む一杯であって、はち切れんばかりの腹を抱えて飲むもんじゃないと微かに思う。
木曜日のマドンナのお祭りの日は、特別な料理があるという。デボラ曰く、モントーネ、英語でいうマトンのズッパを三日前から仕込むらしい。すごく興味があるけど、木曜日にまた来るかどうかは、現時点では決められない。来られそうだったら電話する、と約束して、残したドルチェにアルミホイルをかけてもらって持ち帰った。 夜は高潮の心配がないとホテルのお姉さんがいうので、安心して出かける。目指すはアッカデミア近辺、ドルソドゥーロ地区のオステリアAi Quattro Feri。19時半過ぎに行ったのに、もうすでに予約で一杯と言う。この店はスローフードのオステリア・ガイドブックosterie d'Italiaにも出ている。残念、またね、というわけで、さて、どこに行こう。例の某女性誌にはすぐそばに“リストテケ”と称したリストランテ+エノテカを標榜する店があるというけど、今日はたまたま休みのようだし。なんとなく、Ai Quattro Feriの隣を覗いたらそこもどうやらバーカロ・オステリアのようだ。持って来たヴェネツィア・オステリエ&ディントルニを見ると、名前はLa Bittaという店らしい。メニューは少ないけど少数厳選という話のようで。とりあえず探すのも疲れたし、入ろうということに。
手前はたむろして立ち飲みするおやじ連、ところどころ、独りで飲む女性、という不思議な店で、入っていくとなんとなく視線が集まってくるのを感じる。飲みか食事かと聞かれ、食事だというと奥のテーブル席に通された。好奇の目を逃れ、メニューを見ると、前菜、プリモ、セコンド、それぞれ、2〜3種類しかない。ちなみに前菜はカボチャとラディッキオ・トレヴィーゾのイン・サオール、粗塩とローズマリーのトレヴィーソ風ポルケッタ、薫製牛肉のカルパッチョ。どれも8ユーロ。パスタは二種類でどちらも肉系、パッパルデッレのラグーとか。これも8ユーロ。セコンドは三種類、惹かれたのは豚頬肉のカベルネ・ブラサート、鴨のペヴェラーダソース(レバーのソース)。13〜18ユーロ。ともかく肉しかない。魚の文字はどこにも見当たらない。昼の余韻が残っている身体としては、かるーくチケッティ、それと野菜、という気分だったけれど、このメニューだと逃げ場がない。入る前に店先に貼ってあるメニューを見るべきだったと後悔したけど、果たして貼ってあったかどうか記憶が定かでない。注意力散漫。こんな状態でご飯食べても美味しいわけがない。
例によって、注文を聞きに来たお姉さんに、取材したい旨を言う。そして注文する。前菜にポルケッタと野菜のイン・サオール、セコンドの豚頬肉、そして私はセコンドの代わりにインサラータを頼む。情けないことに。ともかく、前菜がやってきたのでとりあえず撮る。ポルケッタは薄切りにしたそれがさっくりと山盛り。カボチャとラディッキオは玉ねぎの甘酢漬けになっていて、それがまた実に美味しい。酸っぱすぎず甘過ぎず、ラディッキオ本来の水分の多さがまた胃袋に心地よく、するすると入ってしまう。つけ合わせのポレンタもほかほかの煮上げたてでぱくぱく食べてしまう。全体に優しい味。バランスのいい味だ。ポルケッタも塩のバランスがよく、トスカーナで食べる“しょっぱい”ポルケッタ・イメージは覆される。
私達の担当のお姉さんが、あんたたち、それを本に載せないなら言いたいことがあるけど、実は私は日本語が話せます、という。きたきた、予想していたけど、ヴェネツィアには日本語を話す人が意外と多いのだ。ヴェネツィア大学には東洋文学科がある。フィレンツェでは日本語でバカ言っててもほとんど問題はないけれど、ヴェネツィアでは危ない。「私、日本語わかります」という人が結構いて、冷や汗かくような場面もないわけじゃない。よかった、まだここでは醜態を見せてなかったなとほっとしながら話を続ける。彼女の名はデボラ。日本文学は合計で8年学び、専攻は谷崎。はずかしながら、まともに読んだものがない。細雪と痴人の愛を半分くらい。ラッキーなことに、そういう方面の話にはいかず、もっぱら食べ物の話になる。あんたたちが撮りたいなら、他にも料理を持ってくるわよ、もちろん、食べなくてもいいわよ、という。食べたいのはやまやまだけど、ここで食べたら死んでしまうかもしれない、初日なのに、ということでブレーキをかけまくり、持って来てくれたら撮るということにする。そこで、鴨のペヴェラーダ・ソースを、誰か他の人のオーダーを利用して撮らせてもらう。冷めちゃうから早く早く、あ、ごめん、冷めちゃったかも、と言いながらデボラに返すと、大丈夫、イタリア人だから、と言いながら本来の依頼主のところに持っていった。
カベルネ・ソーヴィニヨンの豚頬肉ブラサートを食べる。これは今までにこんなに柔らかくて優しい味の頬肉を食べただろうかというくらい美味しい。頬肉というのは柔らかくて美味しいものだけど、フィレンツェでこんな頬肉を食べようと思ってもそうそう食べられるものではない。お肉料理のポイントをがっちり押さえた調理、という感じがする。ここはヴェネツィアなのに? 店のカードにはonly meatと書いてある。どうして肉なのかは、やっぱり他の店と違いを出したいがため、という。やるからにはきっちりと、中途半端な肉料理ならそのへんのリストランテにもある。そうではない、その日その日に入ってくる状態のいい肉の良さを引き出した料理を出す、というのがこの店のモットーである。冷凍ものを使いたくないがため、冷凍庫はない。豚頬肉に感動した相方は、その後に“撮影用”に持って来た薫製牛肉のカルパッチョを、食べてもいいなら食べる、とデボラに言う。果たして、さっぱりとした薫製と柔らかい塩味で、これも文句はなかった。
メニューはワインリストも含めて手書きである。料理は素材次第で変わるからそれもありだけど、ワインリストも変わるのか?ともかく、手書きでヴェネトやフリウリのワインばかりが並ぶ。聞いたことがないような銘柄。12ユーロから、安いものが揃う。グラッパやアックアヴィーテも種類が多い。デボラが用意してくれたドルチェ盛り合わせを食べる。チーズケーキ、ブルーベリーのケーキ、レモンと松の実のケーキ、チョコレートケーキの4種類が、オレンジ、キウイ、パイナップル、ぶどうと一緒にフォトジェニックに盛られている。ケーキはみな自家製だが、なかでも、チョコレートケーキはちょっと他では食べたことがない味。ねっとりとさっくりの中間のようなチョコの中にざらりとした砂糖の粒が微かに残る、甘いけれど甘過ぎないぎりぎりの味。美味しーいと言ったら、もう一切れ持ってきてくれた。あれほど昼間の満腹で、最初はもう晩ご飯も義務的だったのに、今や別人の腹。デザートワインも飲みきってしまう。こうなれば蒸留酒まで行かないと。何を飲んだのかはっきり記憶がないけれど、ヴェネトのグラッパを飲む。辛い。これは寒いときにきゅっと飲む一杯であって、はち切れんばかりの腹を抱えて飲むもんじゃないと微かに思う。
木曜日のマドンナのお祭りの日は、特別な料理があるという。デボラ曰く、モントーネ、英語でいうマトンのズッパを三日前から仕込むらしい。すごく興味があるけど、木曜日にまた来るかどうかは、現時点では決められない。来られそうだったら電話する、と約束して、残したドルチェにアルミホイルをかけてもらって持ち帰った。
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