2003年9月、ミケランジェロ広場の麓、サン・ニッコロに誕生したこの店、看板もないが、連日フィレンツェ人のなかでも新しいもの好き連中で賑わっている。というのも、店のインテリアがいわゆる“今風”で、オリエンタル・テイストだったり、バロックあるいはゴシック風のこってりした装飾で、なんだかとっても非日常的なのだ。しかし、まやかしっぽい空間で食べるものも怪しいか、というとそうでもない。いや逆に、料理はしごくまっとうで、正統である。それもそのはず、料理と運営をまかされているフランチェスコとジャンニの二人は世界各地で料理修業をした後、この店を始める前はホテル学校の教師をしていたのである。その経験を生かし、イタリアの各地の料理をメニューにのせている。メニュー構成がまた変わっていて、「生、あるいは冷たい料理」「インサラータ」「温かい料理」に分かれている。お客は好みとお腹の空き具合で何をどれだけ頼んでもいい。しかし、どんなものがどれだけのボリュームで供されるものか初めてだと想像すらできないので、カメリエーレに相談するしかない。新機軸の店で困る点はこういうところだと密かに思う。
ちなみに初回に食べたのは、「野菜のコンディリオーネとオネリア産エビ、バジル風味のトマトのスプーマ(泡)」、「トロペア産小玉ねぎと仔牛のソースのマッケロンチェッティ」、「全粒米、フェンネル・シード風味のチンタ・セネーゼのフィレ、アスパラ添え」など。コンディリオーネとはリグーリア地方の名称で、平たく言えば、野菜を細めの拍子木切り、ジュリエンヌにしたものをさっと火を通し、オリーブオイルベースの味付けを施してある。パスタの種類はズッパ1種を含めて7種、すべて「温かい料理」にカテゴライズされている。メニューにはないけれどお薦めとして、その日はマグロのタリアータ(たたき風)があった。マグロはフィレンツェではめったにお目にかかれないが、それだけに市場などに出ていれば冷凍ものでない生の美味しさに出会う可能性は非常に高い。2003年の大晦日の中央市場では、かなり上等な生のマグロがあった。スポンサーがいたので塊で購入、刺身やづけにして楽しみ、血合いは後日トマト煮にして赤ワインで堪能した。シチリアで「マグロは捨てるところのない、海の豚だ」と言われたのを思い出した。考えれば、そういうのはよく聞く。捨てるところのないという形容詞がつくのは、豚、牛、くじら、そこにマグロが加わるらしい。
脱線したが、最後にもうひとつ。店名の「フィリペペ」とは「唐辛子の友達」くらいの意味だという。コックの二人がカラブリア出身であるところから来た名前だ。でも必ずしもこの店は、カラブリア料理や辛いものに限定しているわけではない。地中海沿岸各地、つまり、イタリア半島のほとんどの料理を味わう店である。コンサバな土地柄のフィレンツェでは新しい試みのスタイルだ
●店データ Via San Niccolo, 39r tel055-2001397 夜のみ営業 月曜休み
2003年11月
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